ドイツ・シェパード犬の犬種標準

この犬種標準は、1899年・フランクフルト市に於ける第1回会議総会において、アルトール・マイヤー氏およびフォン・シュテファニッツ氏の提案により、 社団法人ドイツ・シェパード犬協会(SV)当然、SVが加盟するドイツ蓄犬連盟(もこれを承認しその後、ケルン市に於ける第23回総会及び1961年の繁 殖委員会並びに役員会において、一部修正が行われた。
更にその後WUSV(ドイツ・シェパード犬世界連盟)による改正を経て、1976年8月30日の同連盟の会議において決定されたものであります。
ドイツ・シェパード犬は、1899年にSV本部が設立されてから計画繁殖を始め、当時牧羊犬として作業に従事していたすぐれた天分を有する、中部ドイツ、南部ドイツの種族から高度な使役能力を持つ、使役犬を作出するために計画繁殖を行なって改良を重ねてきたのであります。
『シェパード犬の繁殖は作業犬の作出にあり』という犬聖シュテファニッツの格言がこれを語っています。
この目的を遂行する為にシェパード犬の理想とする体形及び性格を肉体的状態並びに本質的稟性に関して犬種標準として具体的に定めたものであります。

一般外貌

ドイツ・シェパード犬は、中型よりやや大きく、背の高さは平均約60cmに達する。
体高は駐立時、被毛を圧し場合の骨格の高さをもって測る。即ち、キ甲から犬の肘に触れる如く地面にくだす垂直線で測定するものとする。
使役犬としてのシェパード犬の牡においては、約60~65cm、牝においては、55~60cmが望ましい尺度である。
これを超過したり、最低の尺度に達しないことは、使役および繁殖価値を減じるため種犬としては認められない。
ドイツ・シェパード犬は、やや胴長で力強く、且つよく筋肉が発達している。その骨は乾燥し、且つ関節は堅固である。
体高の体長に対する比率および四肢の姿勢と構成〔角度〕は、闊大にして持久力のある歩様を可能にしている。
ドイツ・シェパード犬はあらゆる天候に耐える被毛を備えていなければならない。
外観は美しく、感じが良いことは望ましいが、それを求めるあまり、使役能力が軽視されてはならない。
性徴は明瞭、即ち牡犬の牡犬らしさと牝犬の牝犬らしさは、はっきりしていなくてはならない。
犬種標準に適合したドイツ・シェパード犬は、均整的でこれを見る者に自然に備わった力、および英知並びに指導しやすさを感じさせる。
そしてこの姿においては、よく調和の取れた均整が保たれており、どこにも過不足はない。
ドイツ・シェパード犬の動きと態度は、「健全なる精神は健全なる身体に宿る」という諺の通り、使役犬としていかなる場合でも最大の耐久力を発揮して力を尽くすことが出来るという、肉体および精神的証左を容易に認識させるものでなくてはならない。
横溢した気性を持ちながら従順であり、あらゆる状況に適応し、課せられた諸作業を従順に、かつ喜んで遂行し、また、その指導手あるいはその財産を守る必要がある場合には、その指導手がこれを望めば、勇敢に攻撃しなければならない。
しかしながら、平常時においては、十分注意深く、しかも、気持ちのよい家族の一員でなくてはならない。
即ち、その親密な側近者、特に子供たちやほかの動物に対しては温順であり、また、他の人間には率直に対応し総じて自然の品格と尊敬の念を起こさせるような、威厳を備えていなくてはならない。

角度および歩容

ドイツ・シェパード犬は、早歩体型の犬であり、従って、その歩行は、対角の運歩によって行われる。即ち、常に後肢と共にこれと対向する前肢をもって歩行する。
四肢は、背線の著しい動揺を伴わず、後肢を身体の半ばまで推進し、そして前肢をもって丁度その幅だけ踏み出すことが出来るように相同調する。即ち、四肢にそれだけの角度がなくてはならない。
体高の体長に対する、また、これに相応する肢骨の長さの、正しい釣り合いがとれていれば、低伸にして、闊大な歩様を印象づけることが出来る。
頭部を両方へ伸ばし、尾を軽く挙げた場合、均整のとれた、落着いた速歩体型の犬にあっては、耳の先から項(うなじ)およびキ甲部、更に背腰部を通って十字部に至る軟らかい、弓形の線を現す。

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※速歩するシェパード犬の骨格図(シュテファニッツ氏による)

 

本質と性格

精神が堅固であること、注意深いこと、偏執性のないこと、警戒性、忠実性および非誘惑性並びに勇敢性闘争本能および鋭敏性は、純粋に繁殖されたドイツ・シェパード犬の最も優れた特性である。
これらの諸特性は、ドイツ・シェパード犬をして、一般的に使役犬、特に監守犬、警護犬、警察犬並びに牧羊犬として立派に適応させるものである。

頭部

頭部は鈍重でなく、犬体の大きさにふさわしく、外観は乾燥し、両耳間は適度に広く、額は前および横から見て、僅かに隆起しているに過ぎず、額溝(中央の溝)はないか、または軽くその存在を暗示するばかりである。
頬は、側面は極めて緩やかに円隆し、前方に向かって隆起せず、上頭部は上から見て、両耳から鼻端に向い、斬次均整的にその幅を減じながら斜走し、額段(ストップ)は著しく目立つことなく、同様に上から見て、クサビ形に走り、長く、乾燥した鼻口部へ移行する。
口吻は力強く、口唇は緊りがよく、乾燥し、かつよく吻合し、真直ぐな鼻梁はほとんど額の延長線と等斉に走る。上頭部の幅は、頭部の長さに相応しているべきであるが雄は雌に比べてやや幅が広い。
歯牙は非常に強く、切歯は鋏状に鋭く咬み合い、異常被蓋咬合(上顎前出、オーバーショット)、であってもいけないし、反対咬合(アンダーショット)であってもなおいけない。
耳は中位の大きさで、耳根は広く、且つ高く付着しており、両耳は立ち、先端は鋭く尖り、前方へ向かっている。内側に傾いては外観を損なうし、また両側に開きすぎてもいけない。
ただし、成長過程の4ヶ月~9ヶ月ぐらいまではある程度許される。垂耳は排除し、断耳は禁止されている。
目は中位の大きさで、巴旦杏形(はたんきょうがた)をなし、やや斜めにつき、突出せず、色はなるべく暗色であり、そして溌刺として、かつ理知的な表現を現す。

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※欠点のある牝犬の頭部

顔の部分が頭の部分より長く口の深さが足りない。鼻梁も前方で上に突起していて締まりの悪い柔らかい垂れた唇。(シュテファニッツ氏による)

 

※牡犬のすぐれた頭部

※牡犬のすぐれた頭部

 

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頸部

力強く、よく発達した筋肉をもち、長さは中庸を得、喉皮はたるんでいてはいけない。また下縁の皮が垂れ下がっていてもいけない。
頚は、興奮するときは起揚するが、平常はほぼ水平に保持される。

胸は深いが広過ぎず、助は扁平でも樽型でもいけない。
腹は適度に捲縮し、背は腰を含んで真っ直ぐにして力強く発達し、キ甲と尻との間は長過ぎず、胴の長さは、体高の尺度を越えていなければならない。
全体の長さにおいて短く正方形をした高肢の犬は排除すべきである。腰部は幅広く、かつ力強く、尻は長くて、かつ軽く傾斜している。水平尻であってはならないし、短い尻も欠点である。 キ甲部は長く、十分発達しているのが良い。

草状に毛生し、少なくとも飛節まで達し、先端は時々側方に曲がった鉤状をしていることがある。ただし、これは望ましいことではない。
尾は静止状態におして、穏かな弧形を描いて垂れているが、興奮した時や運動時には一層強く孤形を描きあげる。しかし、垂直線を越える程あげてはならない。従って、尾は真直ぐ、また巻いて背の上方にあるのもいけない。
人工的に尾を切断してはいけない。

前肢

肩甲骨は、長く傾斜しており、平に付着し、前出していてはいけない。
上腕はおおよそ肩甲骨と直角をなし、連結している。
上腕部は肩と同様に筋肉がよく発達していなければならない。
前腕はあらゆる側から見て真直ぐで、前繋は堅固で傾斜角度は険し過ぎず、肘は開離しても、圧着しすぎてもいけない。

後肢

股は幅広く、力強い筋肉をもち、大腿部はかなり長く、また側方から見て、斜めに、相当に長い下腿に対して位置している。
飛節並びに後繋は力強く、堅固でなければならない。

足部

丸みを帯びて短く、よく締まり、かつ彎隆している。蹠部は、非常に硬い。
爪は短く、かつ強く、大抵は暗色である。
狼爪は時々後肢に現れるが、多くは開広した歩容の原因となり、また肢の損傷を招来させることもあるため、出産後早めに切除すべきである。

毛色

黒色、鉄灰色、灰色で、単色であるか、または規則的な褐色、黄色または灰白色の斑をもち、黒色の鞍がけや、暗色の雲刷り(灰色または淡褐色の地で、これに相応して更に淡い斑紋をもつものの上に黒色のあやのあるもの)、いわゆる狼色で、これは野生犬の原色である。
小さな白色の胸の斑は差しつかえない。下毛は、黒色の犬以外は常に淡い色がついている。子犬の決定的な毛色は、本毛が発生した後、始めて定めることが出来る。

被毛

・直杖毛のシェパード

被毛は出来るだけ密生し、個々の毛は真っ直ぐで、剛く、かつ堅く付接している。
頭部は耳の内側を含み、また、四肢の前面、下肢部および趾部では短く、頸部においてはこれより長く、かつ一層に生えている。
前後肢の後面においては適度なズボンを形成している。被毛の長さはいろいろである。なお、被毛の長さが様々でであるために、多種の中間型がある。適度に短い土竜(もぐら)のような被毛は欠点である。

・長直状毛シェパード

個々の毛は一層長く、必ずしも真っ直ぐではなく、そして、特に堅く犬体に付接していない。特に耳の内部、耳の後ろ、前腕部の後面および多くは腰の付近にお いて、毛は著しく伸びており、従ってこれらの毛は耳の総(ふさ)毛および肘から前繁ぎに至るまで旗毛を形成している。股の叢毛は長く、かつ密生している。
尾は下方へ軽い旗毛を形成して草状になっている。長直状毛は、正常な直杖毛のように悪天候に耐える力がないため望ましくない。しかし、それでも充分に下毛があれば、なお繁殖に使うのが許される。

・長毛シェパード 被毛は長直杖毛犬よりさらに著しく長く、多数のものは背において分けられている。下毛は、腰部付近にあるだけか、あるいは全くない。
長直枝毛シェパード犬においては、しばしば狭胸および細く伸び過ぎた口吻のものがある。
長毛のシェパード犬は、悪天候に対する抵抗力と使役上の有為性もまた著しく低下しているから、もはや繁殖に使ってはならない。

欠点

使役、耐久力および作業能力に影響を及ぼすあらゆる欠陥、時にその性に相応しない印象および無関心、精神薄弱または過敏、臆病等シェパード犬の本質に反する稟性、一方または両方の隠睾、その両者は犬種選定においても展覧会においても失格とする。
生活力および作業意欲の欠乏、軟弱または海綿質の体質並びに骨量の不足、強度の退色、白子の犬すなわち赤い鼻鏡等、全く色素を欠いた(アルビーノ)や、白色犬黒色の鼻鏡をもつほとんど純白の犬もまた同様に犬種選定でも展覧会でも失格とする。
さらに、体高過大および過小のもの、発育不全な体格、高肢にして過短な全貌のもの、幾分軽いか、または鈍重な体格、軟骨、急峻な肢勢並びに歩様の濶大および耐久力を損うあらゆる欠陥。
その他、短過ぎたり、鈍であったり、弱過ぎたり、尖っていたり、または伸び過ぎや力のない口吻。
反対咬合または異状被蓋咬合いおよびその他の歯牙の欠陥、特に弱いか、または損耗した歯牙。
被毛および下毛の欠如、垂れ耳および絶えず姿勢の悪い耳、巻き尾、環尾、その他一般に姿勢の悪い尾、断耳および断尾、先天性短尾。

※本文中[ ]内は、原文中にある説明。または( )内は筆者が注記したもの。